Yota3 (YotaPhone3) のお披露目が今日(2017/08/23)北京のロシア大使館で行われるのだが、なぜ一民間企業のスマホが大使館の場を借りて発表されるのか、不思議だったので背景を調べてみた。
最初に簡単にまとめておくと、YotaPhone の後ろにはロシアの巨大軍需企業体 Rostec (ロステク/ロステフ/ロステフノロギヤ/ロシアンテクノロジーズ) があり、Rostec の社長セルゲイ・チェメゾフはプーチンの「お友達」。とまぁそういうわけだ。
巨大軍需企業体と書いたが、具体的には軍事関連企業を中心とする巨大企業体で、武器の製造から輸出までを垂直統合する目的で2007年に設立され、2008年から国有企業が払い下げされていって形成された。言うならば政策的につくられた「軍産複合体」だ。チェメゾフは「お友達」だと書いたが、プーチンが東ドイツのドレスデンでスパイやってたころに同じアパートに住んでたKGB仲間らしい。「お友達」よりは「同志」かな。
Yota は最初スカルテルといって、2006年ごろからロシアのWiMAX網構築をやっていたが、2012にはLTE網に転換した。通信網は社会のインフラだから政府がある程度は介入するもので、あとからできた Rostec のグループの中に組みこまれたようだ。
Rostec :: About :: Sergey Kulikov
たとえばこの人の経歴をみるとRostecの幹部でありつつ2009年からスカルテルに入っている。
初代 YotaPhone は2012年に作られ、最初のロシア製スマホとして有名になったが、その一方でスカルテルの経営は悪化、経営立てなおしに Rostec が直々に介入するようになり、その結果として、2014年、ヨタデバイシズの株を25%押さえることとなったらしい。
Rostec :: News :: Rostec acquires a 25% stake in Yota Devices
その年に名機 YotaPhone2 が登場し、ロシアの国産スマホとして、プーチンが習近平に送ることとなった。
さて YotaPhone2 の次機だが、既に2014年にファブレットを出す計画があったらしい。
Rostec :: News :: Yota Devices to release a phablet
前にも書いたように YotaPhone の Yota はギリシア文字の ι(イオタ) つまり i のことだ。ロシアの iPhone として期待もされていただろうし、iPhone に対する iPad のように YotaPad のようなものを出す意向があったのだろう。しかし YotaPhone2 はハイエンドすぎて無茶苦茶高かった。それで中国の安価な製造能力を狙って2015年にはZTEとの提携をしたようだ。
Rostec :: News :: Yota Devices and ZTE’s associate companies have decided to collaborate
2016年初頭にはプーチンに "YotaPad" の試作品とおぼしきものを見せている。こういうところから見るとプーチンの意向はある程度は反映されているんだろう。
YotaPad все же выйдет в свет (ページ中頃にプーチンが"YotaPad"を眺めている動画あり)
しかしその一方でロシアはウクライナへの介入のせいで2014年から経済制裁をくらっている。中国との提携はその打開という面もあるのだろう。しかし資金調達も中国をあてにしたのはちょっとよくなかったかもしれない。2015年の10月に香港の投資会社に株を売却したのだが、さらに2016年に株の買い増しをされてしまった。
Rostec :: News :: A Hong Kong investor is to buy out 64.9% of shares in Yota Devices
それから Rostec のニュースに YotaPhone 関係の記事がなくなってしまった。いつのまにか提携相手が ZTE(中興) から Coolpad(酷派) にかわっていたがそのあたりの事情はよくわからない。酷派が落ち目なので安く買い叩いたのか? 過去の冒険的な技術力に期待したのか? ZTEの試作品の出来がまずかったのか? そのあたりはよくわからないが、開発製造が完全に中国側に渡っていることはこの記事からもわかる。
YotaPhone3 ではなく Yota3 ということで売ろうとしているのもそのせいかもしれない。しかし商売上 YotaPhone の名前を出さないわけにはいかず、今でもどっちにしたいのかよくわからない状態だ。
しかしそのような状態でも Rostec はヨタデバイシズの株の10%はおさえているらしい。プーチン様の紐付きスマホという性質は今でも残っているということだ。アメリカとか日本で暗躍するロシアの影をみるとどうも躊躇してしまうな。....YotaPhone2 をありがたく毎日使わせてもらっている状態で躊躇もくそもないか。
参考資料:
- m201512No.04v30d.pdf 塩原俊彦「ロシア産業の「内部」:
Rostecにみる現状と課題 」ロシアNIS調査月報2015年12月号
- 塩原氏はロシアの宣伝装置であるSputnikに寄稿してるくらいなのでどうもあっち系の人っぽいが、そういう人だけに内情には詳しく、こういう細かいことを検索したら塩原氏に当たる。ただ、情報を咀嚼しきれてないようにも見える。