メモ@inudaisho

君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

プラチナ万年筆 プレピー ( preppy )

 桁DPがよくわからないので気分転換に万年筆のことでも書く。

 この9月ごろに京都市バスの一ヶ月定期を買ってグルグル回ってたとき、丸善に行ってふと目にとまったのがこの万年筆プレピー。全身からただよう安物感と400円という値段をみてつい買ってしまった。

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 筆記具として使っていたのはそれまでゲルインクボールペンの三菱シグノ(signo) 0.38mm のブルーブラックだった。最初に触ったゲルインクボールペンというのもあるが、油性ボールペンよりもなめらかでよい線が書けるので気にいってそればかり使っていた。しかしあまり使いまくったので何本も芯を換えるうちにボールペンのキャップがバカになってしまらなくなる。またすぐ落してしまう。そこで芯だけ買って紙を折ったものに挟んで胸ポケットにいれるようにした。こうすると落ちづらいしすぐ出せるし予備をたくさん持っておける。それと海外に行ったときに「なんかボールペンくれよ」みたいなこと言われても、芯だけで使ってるのを見せると何も言われなくなる。

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 ということだが、万年筆はボールペンとはちがい本物のペンだから書き味はさらによい。ということでプレピーを買ってからしばらくプレピーばかりつかっていた。買ってから一ヶ月以上たちインクも一本消費して新しく十本入りの小箱を買った。だいたいよいところも向いてないところも見えたのでそれをまとめる。

よい点

  • 描線がなめらかできれいにかける

 ペンなのでたとえばとめ・はらいといったものもボールペンよりは表現できる。インクの濃淡がまたいい。筆圧もそれほど必要としないのでたくさん書くときにはよい。

向いてない点

  • 濃淡がある

  • ペンなのでしばらく空気に晒すと乾いて書けなくなってしまう

 これは向き不向きになるが、濃淡があるのは美的にはよいが、記録物としては微妙で、ボールペンのように一定して濃い線が書ける方がいいこともある。また考え事をしながら書くのも向いていない。ちょっとヨダレをたらしながらボーっと物を考えたりするとペン先が乾いてしまう。

 濃淡についてだがこの写真、どっちが三菱シグノのブルーブラックでどっちがプラチナ万年筆のプレピーのブルーブラックかわかるだろうか。

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 答えをすぐに書いてしまうと上がシグノ、下がプレピーなのだが、プレピーもそれなりに濃くは書けることがわかるだろうか。しかし残念ながらもっと薄いときもある。とはいえ、これは時間の経過とともに化学反応で濃くなるらしい。没食子インク - Wikipedia

 まぁその濃淡は案外好きなのでいいのだが、それよりもペンなので出しっぱなしにできないのがちょっと不便ではある。ボールペン自体がそういった万年筆の不便なところを解消するために生みだされたものだということもあるだろうが、よし書くぞといってスラスラ書くようなものを書いてないのでちょと不便ではある。結局頭の整理をするためのメモの分野は電子ペーパーの Boox Max2 でやることになった。とはいえ Boox Max2 は本をまとめたりするにはまったく向いてないのでまだまだ万年筆の出番はある。

ついでに歴史

 ちなみに最初のみかけはものすごく安っぽかったので中国製品がこんな分野まで進出したのかとおもっていたのだが、日本製でしかもかなり歴史のある万年筆屋だったので驚いた。1919年(大正8年)創業と日本の万年筆製造会社としてはかなり古い。

現今国産の趨勢 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 これは1915年(大正4年)の本だが挙げられている国産万年筆は三社しかない。その三社のうちのひとつが丸善ゼニスで、その丸善京都本店でこのプレピーを入手したのはなかなかおもしろい。国会図書館デジタルコレクションで万年筆で検索するとプラチナ万年筆が創業したころは万年筆創業のブームだったようで、官報にも万年筆の広告がいっぱいでている。もっと前から普及していたものかとおもっていたが、一般の消費量が増えたのは大正中頃からのようだ。

漱石全集. 第9巻 (小品・評論・雑篇) - 国立国会図書館デジタルコレクション

 夏目漱石にも「余と万年筆」なる文章があるが、漱石は万年筆があまり好きではなかったらしく、ペリカン万年筆を二本もらったもののかなりひどい使い方をしておかしくしてしまったようだ。漱石はブルーブラックがすきでなく他の色のインクをどんどん試したということで、インクの特性上ダメになってもしかたない。では漱石は何で文章を書いていたかというと、昔ながらのつけペンでインク壺にペンをさしさし書いていたようである。

万年筆 - Wikipedia

 Wikipediaの万年筆の項目によると初期の万年筆は19世紀前半のイギリスにあるようだが、毛細管現象を利用する万年筆のはじまりは1880年代のアメリカになるようだ。イギリスに行ったこともある夏目漱石つけペンを使っていたということはやはりまだまだ万年筆は一般的ではなかったということだろう。アメリカ的な大量生産と合理主義がそれを後押ししたと考えると明治と大正の時代の違いもありそうだ。

 しかしこのころの本をみていると万年筆が金ペンというように豪華そうなものになったのは別に装飾が行きすぎたり富の象徴としてそうなったのではなく、没食子に代表されるインクが酸性なので、万年筆のように常にインクと接触しているものだと普通のペン先ではすぐにダメになってしまう、そこで金メッキが必要となったということだ。今でも万年筆が高級文具としてケースに入れて大事にされているのはそういう歴史の名残のようだ。