メモ@inudaisho

君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

Rovert D.Crews ”Afghan Modern: The History of a Global Nation”

 大学の図書館というのは卒業しても卒業生利用証というのをつくれば使えるところが多い。自分の出身大学などは申請さえすれば永久に使える利用証をくれる。こないだ大学の図書館に行って開架を眺めていたらこういう本が配架されていた。

 去年出たばっかりの本で、アフガニスタン近現代史を扱ったもの。アメリカが911以降アフガニスタンに深く関与せざるをえなくなった結果、これまでの皮相的なアフガニスタン理解では間にあわないことがわかり、研究がどんどん深化した成果がこれだとおもえばよい。
 これまでのアフガニスタン史研究というのは現代か古代に偏っていた。ティムール朝の傍系の王子のバーブルがサマルカンド奪取に失敗し、アフガニスタンのカーブルを足掛かりとして、インドにムガル朝を建立した事実と、近現代アフガニスタンの歴史が繋っていなかった。それは三度に渡るイギリスとのアフガン戦争や20世紀のソ連アフガニスタン侵略などで容易に屈服せずついには追いだしてしまったアフガニスタンの歴史が神話化されパターンとなってそこから抜け出せなくなっていたからだが、近現代のアフガニスタンは文明の十字路ではなくて一辺境だったから歴史の研究もそのレベルに甘んじていた。
 自分も20世紀末には当時のタリバン政権下のアフガニスタンに何度か入ろうとして追い返されたりしたことや、2011年にはついに北からカーブルまで入ったこともある程度の因縁があったが、そんなに深く近代史について調べてはいなかった。ただし最近インド北西部のことを調べだして結局アフガニスタンについて知ることが不可欠となり、いろいろと読んでみると第一次アフガン戦争や近代アフガニスタンの成立について一般に知られている事とは違う事実が横たわっている事を知ってますます手を広げてしまう。本ばっかり読んでるならどこでもいっしょだ、とインドにまで行ったのが去年から今年にかけてのこと。しかし英語の本しか読んでないのに読むべき本が膨大で、結局まとめられず、最近放置気味になっていた。
 そしてこないだこの本を図書館でみつけ、ちょっと一章だけ読んでみたところ、自分が気付いたことと方向はおなじだが、範囲はそれ以上に手広く調べて手堅くまとめてある本で、正直舌を巻いてしまった。
 あぁ.. おれがバカだった.. こんなニッチな分野に誰も入ってこないだろうとタカを括っていたのは傲慢だった... ニッチどころではなく、18-19世紀のこの周辺地域のことを考えるうえで重要な意味をもつのがアフガニスタンだが、その後に来たグレートゲームの文脈がすべてを塗り潰し、アフガニスタンは辺境に押しこめられ、誰もそこには目を向けようとはしなくなった。まぁもっとも近年イスラーム研究が進展し、近現代と中世近世をどうつなげるかというところに意識が向くようになったことや、モンゴル帝国の研究の衝撃が遊牧民帝国の研究をより活発化させそれがこのへんにも及びそうになっていたので、いずれこうなる時が来る事はわかっていた。がしかしいきなりこのレベルで出してくるとは。やっぱ外人すごいわ。
 ということで続きを読みにまた図書館に行かねばなるまい。どうせ自分のような無職のゴミみたいなおっさんがどんだけがんばったとこでこういう成果物として世に出ることはなく精々誰にも読まれない自己満の自費出版止まりなのだから競争してるつもりになってること自体まちがっている。ありがたく読むことにしよう。