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君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

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君見ずや出版

 前の記事のごとくパブリックドメインを利用したもので無事 KDP セレクトに登録できた。


地黄坊樽次・君見ずや出版『水鳥記 崩し字解読』

 江戸初期の仮名草子『水鳥記』の刊本を利用して崩し字解読の練習用にしたもの。翻字したものは江戸叢書巻七(1916)をもとにかなり改変。

 慶安の初年(1640年代末)茨木春朔と池上幸広の間でおこなわれた酒のみ合戦の後、事の次第を軍記物めかして誇張して書いた戯文が水鳥記。池上氏は鎌倉時代以来の武士の名門領主でそのころ多摩川河口を開発していた。茨木春朔は酒井忠清の侍医。

 この本の元にした版本は1680年代の江戸刊本。当時の出版の中心はまだ京都で、版元の松会も京都で出た本を江戸で再出版するのが商売の中心だった。水鳥記は江戸発の出版の走りでもある。酒合戦ののちに戯文がまとめられたあと、国書総目録によると明暦元年にも出版されているようだが写本などで流通していた。その間に改変されているようで、本来の結末は和睦であったのが、この版本では樽次の勝ちとなっている。事実の断片をつたえるものとしては不適だが、一般向けの物語としては発展したともいえる。しかし樽次、とんでもないアンチヒーローぶりでおもしろい。読んでるうちに底深がんばれとおもってしまう。最後の帰還のくだりなどは当時の江戸周辺はまだ開拓地で荒れてたんだろうなとおもわせるような雰囲気がある。

 この刊本のかくれたテーマとして指摘できるのは真言宗(樽次方)対日蓮宗(底深方)だろう。池上氏は池上本門寺をたてるなど日蓮宗の熱烈な信者であった。この刊本ではそのことについてまったく触れられないばかりか、池上氏についても大師河原のように真言宗寄りの地名で説明されているが、背景としてそういうのがあることを知っておくと、各所に真言真言とでているのがおもしろく読める。


 さて。どうしたもんか。自転車でこけて前歯がなくなってから金がないのはやはり不都合が多いという現実に直面した。うーむむ。まぁ金ないから歯がボロボロになっても放置していたので、ちょっと顔から落ちただけで最後残っていた一本が抜けてしまったというわけで、来るときが来ただけでもある。