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君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

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君見ずや出版

 今週は三冊。しかもなかなかの値打ちものばかり。


 貴賓会『英文全国汽車汽船発着時間及賃金表』明治35年(1902)

 明治35年(19902)の全国時刻表。帝国ホテル内部につくられた貴賓会なる組織がつくった外人向けの小冊子で英文ですが、現在の時刻表の形式に近いので非常にみやすい。このころの日本ではまだ漢字をつかった時刻表が主流でこんなにみやすくはなかった。

 明治39年鉄道国有法の前なので日本中に私鉄があふれていたころの状態がよくわかるという点でも貴重。明治の日本の鉄道は官設鉄道が遅々として進まず、旧士族・華族が出資して作った日本鉄道の成績がよかったために明治20年代には民間主導の鉄道建設ブームが起り日本中が私鉄で覆われることになります。明治39・40年に国有化されず、戦時中の国家総動員体制でも国有化されず、鉄道縮小時代でも廃業せずに残ってるものとして伊予鉄道近江鉄道なんかがあります。

 また産業革命の貨客輸送におけるもうひとつの主役である汽船についても国内航路が網羅されそれぞれ運賃・時間が示されており、船好きにもたまらない。


参謀本部『日本戦史 大阪役』明治30年(1897),明治44年(1911)

 参謀本部による戦史シリーズの日本史版。大坂の陣のものを今頃だしました。本編、附表附図は明治30年の初版。補伝は明治44年の再版。ただし附図の地図は欠落があったりそもそも画像が汚かったりしたのでこの本の地図を元につくられた吉田東伍『大日本読史地図』からもってきました。本編は戦史ということで戦況だけを追うなr本編をみるのが速いですが、補伝には元資料にある豊富なエピソードがのっており、これが本体ともいえます。戦史自体は資料解釈の例の一つです。、戦争はそもそも政治の利害の衝突なので、記録によって違ったように書かれていることの方が多いです。

 今頃出したというのは大河ドラマ便乗ならもっと早く出すべきだったんですがそういうのを用意してたころはこんな大部なものを電子書籍化するつもりはなかったからです。今はもうこういうデカいものも躊躇せず出してますね。


 香西成資『南海通記』史料叢書 大正15年(1926)

 中世四国と畿内武家の歴史を中心とした史書。讃岐の名族香西氏の末裔香西成資が先祖の事績をたどるためにつくったとおもわれるものですが、香西氏は室町幕府管領細川氏重臣であり、細川氏の動向が応仁の乱以降の京都周辺の歴史そのもの、さらに細川氏の阿波の守護代から出発して畿内を制覇した三好氏の動向もからむので、結果的にそうなってます。織田信長が上洛したのも三好氏を京都から追いだすためであり、上洛後の信長の戦いは四国つながりの勢力を畿内から一掃することにあったともいえます。そして最近有名になっている本能寺の変四国原因説というのがありますが、これは信長の四国征伐長宗我部元親の四国制覇との矛盾に、秀吉→三好氏ラインと光秀→長宗我部氏ラインの利害が衝突して起こったというもので、南海通記はもちろん四国からの目でそのへんを記述しています。

 ちなみにこの本は香川丸亀ののちの藤田書店の藤田徳太郎(春嶺)が讃岐史料のシリーズとして出したもので、香西成資が最晩年に白峯寺に奉納したものを江戸時代に書写したものが元。それを原本とつきあわせて校正したということで跋は徳太郎が書いてます。『南海治乱記』というのもありますが、これは南海通記になる前の段階のもの。