吉井勇『酒ほがひ』の表紙 https://t.co/1ZlFM2Z7nv は、ナスタアリーク体のペルシャ文字で برترح شراب (ペルシャ語で「最高のワイン」)と書かれていますね。 pic.twitter.com/8NYTrcWEhX
— 2SC1815J (@2SC1815J) 2017年8月11日
吉井勇『酒ほがひ』(明治43年)の表紙 https://t.co/OBfJ5HfkX2 、記載内容を断定するのは言いすぎで、「書かれているようだ」とすべきでした。アラビア語やペルシャ語などに詳しい方のご批正をいただければ幸いです。
— 2SC1815J (@2SC1815J) 2017年8月12日
さて id:2SC1815J さんもあとで気付いたとおり、この表紙、このままだと意味がとれない。一応書いておきますが「詳しい方」ではなくちょっと知ってるだけなので、知り合いの知恵を借りました(コメント欄のGekiryuさん)。
最初に指摘しておくと、ナスタアリーク体ではないです。ベースラインが傾いてるだけで普通のナスフ体かなんかで書いてある。ナスタアリーク体だとたとえば ش のとこなんかは右上から左下へ長く伸ばしてしまってスィーンの特徴である山形を消してしまいます。たぶんなにか基く資料があってそれにそう書いてあっただけだとはおもいますが。
それはどうでもいいとして、内容ですが、酒に相当するところの شراب 、ここは確実なのでよいとして問題はその前。 برترح では意味が通じない。最高の、という意味のペルシア語だと برتری とか برترین だとすればそんな感じになる。この表紙を装丁した高村光太郎が間違えたかなんかで ی を ح にしてしまったという可能性はある。ただ間違えたにしては ح の特徴をそこそこおさえていて、単純に間違えたとはいいづらい。もっともこの文字列をみて普通に読むと بر تدح かなとはおもう。しかしそれでも意味は通じない。 بر ترح だとちょっとマイナスの意味になる。
ペルシア語という前提で話を進めてきたが、ペルシア語・アラビア語以外でアラビア文字派生の文字を表記体系につかってる言語の可能性もあるがそこまでいくとよくわからん。たとえば明治の日本に物理的に近く英領だったマレーとか。あるいはオスマン語とか。ただ、شراب = 酒(ぶどう酒、ワイン)ということ自体がペルシア語的なのでまぁペルシア語なんだろうとはおもう。アラビア語的には飲み物、特に甘い飲み物のことだったりする。この言葉がヨーロッパに入ってイギリスまで行ったのが英語のシロップ。シロップ - Wikipedia
ということでいろいろ調べたあげく、知り合いの研究者でペルシア語の古い文献を日常的に読んでる人に聞いてみた。初見ではやはり ی のまちがいではないか、という感じだったが、上記の可能性を上げて他になんかないかとあてのない事を投げてみたところこういう返事が帰ってきた。
「祝ひの意味から考えるとmadhがしっくりきますね」
「mimとtaの書き間違えか」
つまりこれ→ 「مدح」(Steingass)。たしかに語頭のmの丸は潰れることも多いので、読めない人が後から中途半端な知識で勝手に点を足したとすればわかりやすい。ならばその前の بر も در の可能性があるとおもってこれも聞いてみたがどっちでも通じるということだった。
そういうことでここで挙げた可能性をまとめると以下のようになります。
- 最高の酒の訳
- برتری شراب
- بر ترین شراب
- 酒ほがひの訳
- بر مدح شراب
- در مدح شراب
あとこの『酒ほがひ』、裏表紙にも何か書いてあるようだがよく読めない。
(国文学資料館 近代書誌・近代画像データベース 吉井勇『酒ほがひ』(明治43.9.7) RTHY-00582 , 立命館大学図書館・白楊荘文庫)
切りだして色をいじって拡大してみたのがこれ。
先頭(右端)の字がよく読めないし、連綿するのが普通なのになぜか単字で書いてあるし添字まである。謎。
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