『戦争は女の顔をしていない』
最近『戦争は女の顔をしていない』のコミカライズが始まったということだ。
おもしろそうだったので邦訳を京都の公共図書館でコンプリートしてみた。
このスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチであるが、ノーベル文学賞をとったことも『戦争は女の顔をしていない』の存在も知らなかった。上の写真の中に『アフガン帰還兵の証言』というのがあるが、その英訳版を読んだことがあり、他の著作について調べたときに目にしていたはずだが、まぁアフガニスタン関係ではなかったので探す気もなかったんだろう。
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 著作邦訳一覧
さて上の写真の本を発表順にアマゾンのリンクで示すとこうなる。
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ボタン穴から見た戦争――白ロシアの子供たちの証言 (岩波現代文庫)
- 作者: スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ,三浦みどり
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- 作者: スヴェトラーナアレクシエーヴィチ,松本妙子
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- 作者: スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ,松本妙子
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『戦争は女の顔をしていない』が女、『ボタン穴から見た戦争』が子供、『アフガン帰還兵の証言』がソ連のアフガン侵攻、『死に魅入られた人びと』がソ連崩壊と自殺、『チェルノブイリの祈り』が原発、『セカンドハンドの時代』がソ連。今岩波現代文庫で容易に手に入れやすい三点が『女の顔』・『ボタン穴』・『チェルノブイリ』なのはまぁ受けがいいのを選んだというところだろうか。女・子供・原発はどっちかというと被害者の面が強いが、アフガン帰還兵なんかは戦争犯罪暴露本の趣きがあるので今更読みたくないというところだろうか。
「気持ち」の歴史がタブーを掘りおこす
まだ『女の顔』の半分くらいしか読めてないが、最初の方にこんなことが書いてある。
わたしが気づいた限りでは、より正直なのは一般庶民だ。看護婦、料理係、洗濯係だった女たち。そういう人たちは、新聞や本で読んだ言葉ではなく、自分の中から言葉を取り出す。自身で体験した苦しみからでてくる言葉だ。不思議なことに、教養のある人ほど、その感情や言葉遣いは時代の常識の影響を受けている。
普段なら目に付かない証言者たち、当事者たちが語ることを通じて歴史を知る。そう、わたしが関心を寄せているのはそれだ。それを文学にしたい。しかし語り手たちは証言者であるだけではない。証言者というよりもむしろ役者であり、創作者であったりする。リアリティとわたしたちの間に気持ちがはさまる。それぞれの解釈を対象にしているのだということ、それぞれが解釈をもっており、それがたくさんあつまり、交差しあい、時代の、その時代を生きた人々のイメージが生まれる。
堅苦しい公式的な戦争談をスルーして、その隙間にかいまみえる「気持ち」を掬いとり、戦争のある一面を抉りだすという手法なわけだが、そうやってそれまで表に出てこなかった、総力戦を戦った女性のものがたりを紡ぎ出した。普通それは直接歴史とみなされるようなものではなく、彼女が言うように歴史事実をある程度反映した「文学」のジャンルにいれた方がいいものなのだが、そのようなものがソ連のタブーを掘り起こすことになったのは諸事プロパガンダ臭の強かったソ連という環境だったからなんだろう。今でも綺麗事の好きな人たちがソ連の美夢を追いかけているのを日本で観測できるくらいだ。彼女はその手法でそれまでかえりみられていなかったアフガン帰還兵・チェルノブイリ周辺の聞き取りをやって、世界的にはジャーナリストとして扱われるようになったわけだ。英語版のWikipediaによると、英語圏では彼女の出世作の『女の顔』よりも『アフガン帰還兵』『チェルノブイリ』の作者として知られているらしい。
20世紀はプロパガンダ、21世紀はディスインフォメーションの時代
さて。20世紀がプロパガンダの時代とすれば、21世紀はディスインフォメーションの時代で、既にそういう「うそ・おおげさ・まぎらわしい」情報が世間に溢れている。真実を提示すればみんな納得する、という前提がパロディになりつつある時代だ。ソ連末期に意味のあったこの作品が、21世紀前期の日本でマンガ化されるとき、どういう意図でどのように料理されるのか、じっくり観察するのもいいのではなかろうか。