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大阪万博公式キャラクターのミャクミャクは韓国語の맥の意味に近いから맥맥が妥当

大阪万博公式キャラクター ミャクミャク

 大阪万博公式キャラクターのミャクミャク、発表当時から気持ち悪いという声があがっていたが、別段変えることもなくそのまま使われている。万博の公式キャラクターとかどうでもいいことだが、なんかビジュアル的にも異形だし「ミャクミャク」というのもなんか聞きなれない。ということで一応調べたのだが、幻聴でここにログインもしてなかったのでtwitterに書き流しただけになった。ということであらためてまとめておく。

大阪万博の公式での説明

 公式の説明はここにある。

www.expo2025.or.jp

「ミャクミャク」について 細胞と水がひとつになったことで生まれた、ふしぎな生き物。その正体は不明。 赤い部分は「細胞」で、分かれたり、増えたりする。 青い部分は「清い水」で、流れる様に形を変えることができる。 なりたい自分を探して、いろんな形に姿を変えているようで、人間をまねた姿が、今の姿。 但し、姿を変えすぎて、元の形を忘れてしまうことがある。 外に出て、太陽の光をあびることが元気の源。雨の日も大好きで、雨を体に取り込むことが出来る。

 また、公式キャラクターの愛称を応募した人のコンセプトも公開されている。二人いるがまず一人目。

今まで「脈々」と受け継がれてきた私たち人間のDNA、知恵と技術、歴史や文化。変幻自在なキャラクターは更にあらゆる可能性をその身に宿して、私たち人間の素晴らしさをこれからも「脈々」と未来に受け継いで>いってくれるはず。 そんな希望を込めて「脈々=ミャクミャク」と名付けました。 またミャク=脈であり、生命そのもの。 ミャクミャクという2音が続く様は、命が続いている音にも聞こえます。

 もう一人はこう。

初めてキャラクターを見たとき、赤色と青色が動脈と静脈を連想させたため。また、万博のテーマである、人類文明のつながりや、国際的なつながりを、「脈」という言葉で表せられると思ったため。

 明示されているように「脈々」と「脈」が由来らしい。あと生命の元気さをイメージするものらしい。

中国語・日本語の文脈では?

 ところで「脈々」の中国語と日本語の文脈を確認しよう。

中国語

 まず中国語は定番の漢語大詞典。ちょっと古典寄りになるが。

  • 1.同“眽眽”。凝視貌。(眽眽と同じでじっと凝視すること)
  • 2.形容藏在內心的思想感情,有默默地用眼睛表達情意的意思。(心の中にある思いが黙っているうちにも目で伝わること)
  • 3.猶默默。(黙々)
  • 4.連綿不斷貌。(綿々と続いていること)

 ということで、あんまり元気な感じはない。まぁ2番目は万博のイメージにすこしかすってはいるが、しかしど真ん中ではない。

 次は中国語の口語を主にのせる小学館の中日辞典だと?

-脉脉 〈書〉ものを言わずに目またはそぶりで意思を伝えるさま

 ということで、漢語大詞典の2の意味になるが、それでも書面語で口語ではないらしい。

では「脈」だけでは?

 「脈」だけだとこうなる。

  • 1 血管。
  • 2 脈搏,脈息。(脈拍)
  • 3.按脈診病。(医者が脈をとって診断すること)
  • 4.指地下水。(地下水をさす)
  • 5.指事物如血管連貫有條理者。(血管のように連綿とつながって筋のある物や事)
  • 6.血統、宗派等相承的系統。(血統や宗派などの継承関係)
  • 7.植物葉子、昆蟲翅膀上像血管的組織。如:葉脈。

 ということで、これもあんまり元気な感じはしない。医者が脈で診断するのでむしろ病気のときに調べるものという感じになる。むしろ冷静にものをかんがえてる感じがあるので血脈とか文脈とかの派生語ができるんだろう。脈動や脈拍だと元気な感じになるがまぁ動や拍と動詞がついてるので「脈」だけだとそこまで動かないのが普通ということになる。

日本語

 日本語だがこちらも定番の日本国語大辞典を引いてみよう。

  • 1 長く続いて途絶えないさま。また、絶えず力強く感じられるさま。
  • 2 互いにじっと見つめるさま。また、心に情を含みながら動作には表わさないさまをいう。

 というわけで、漢語大詞典の4および2のことになる。日国の2の例文は中国の古典の古詩十九首なので、まぁ漢文文脈が効くところ、ということになり現代文ではあんまり使われないともいえるか。たとえば広辞苑で引いても「長く続いて途絶えないさま。また、絶えず力強く感じられるさま。「脈々と続く伝統」」ということになる。ただし力強いという文脈が付与されてるあたりは「脈」がすこしは反映されているかもしれない。

 ミャクミャクが元気を象徴するものなのに、「元気いっぱいミャクミャク君!」 という方向に行かず「ミャクミャク様」の方へ行ってしまうのはまぁ見た目も悪性新生物っぽい異形さがあるからだろうが、そもそも「脈々」だけ切りだしてきたときに元気さを想像しないからだろう。

 さて、ここまで見たとおり、「脈々」の本家中国でも日本でも元気な文脈は派生的な意味ではなくはないが、少なくとも正面的ではない。では、最初に答を書いた韓国語ではどうだろう。

韓国語ではどうか

 さて韓国語だが、こちらは天理大学朝鮮学科研究室編『現代朝鮮語辞典』1967をひくとなかなかおもしろい。とりあえず「脈」だがこれは「맥」と表記し、脈の中でも「文脈」の意味のような例文がのっている。おもしろいのは漢字が裏付けにない、朝鮮語本来の言葉としての「맥」があることで、これが「元気」と提示される。他に맥を使った言葉として

  • 맥없다 1 元気がない 2 なんにも理由がない
  • 맥없이 1 元気なく 2 理由もなく

 というのがある。ということで韓国語の文脈では「脈」は理由とか筋とかに限定されて、それと同音の맥が「元気」を意味する、と『現代朝鮮語辞典』1967は解釈しているようだ。既に上でみたように漢語本来の意味では「脈」だけで元気を意味することはあまりなく、そこから「元気」の意味をみるのが漢語的でないと判断したのだろう。ちなみにKorean-English Dictionary 1975 ではどうかとみてみたが、こっちはそのへんあんまり切りわけすらしてなくて맥の方は漢字の意味が列挙してあり、そこから派生した「元気がない」みたいな句とは別々に書いてるので参考にならなかった。ただし英語で脈の第一義に pulse,pulsation とか書いている。つまり、漢語文脈では脈自体(vein)が第一義になるが、Korean-English Dictionaryの英語による訳語では動き(pulse)の方が第一義になるということ。そこから「元気」につながるのはむしろ自然かもしれない。ということで韓国語の맥は脈から派生した「元気」ということにしておこう。

ということで맥맥

 あらためてミャクミャクをみると、赤が細胞、青が清い水と書いてありそんな風な造形とみえなくもないが、赤と青の二色で脈といわれると動脈と静脈を連想してしまう。となるとミャクミャクというよりは血液がドクドクという感じになるが、韓国語の맥は脈から派生した元気なのでこれも「ドクドク」に近い。ミャクミャクの意味を繋がりとかにもっていかず、なにかと生命とか元気に振ってしまうところをみると、ミャクミャクは맥맥ということにした方がわかりやすい。あの悪性新生物っぽい造形もまぁ外国だと思えばそんなもんかもしれん。

人間をまねた姿?

 ただそういうことになると

なりたい自分を探して、いろんな形に姿を変えているようで、人間をまねた姿が、今の姿。 但し、姿を変えすぎて、元の形を忘れてしまうことがある。

 というのはなかなか意味深だな。