メモ@inudaisho

君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

長いSと産業革命

 まずはこのページでも見てもらおうか。

 みてわかるとおり、sの字体がおかしい。fのようにみえる。

In a country of fuch vaft extent as Hindoftan, famous from the earlieft ages for the richnefs of its productions, the falubrity of its climate, and the fertility of its foil, it is to be fuppofed that there are refidents of all complections, and of every religious perfuafion:....

 歯が抜けたとおもって読めば読めなくもない、そんな感じの字体だが、よくよく見ると s であるべきところに入っている f と f であるべきところにある f では微妙な違いがある。そう。この s はこういう字体の s であり、長い s というらしい。

Long s - Wikipedia

 ドイツ語のエスツェット ß なんかもこの長い s と普通の s が結合した合字が起源であるという。上の例では richiness のところに長いsと普通のsの組合せがある。この長いs、イギリスでは19世紀になってようやくあまり見かけなくなったらしい。画像で出した本は18世紀終わりの1787年に出版されたものだが、このようにごく普通に使われていた。そういうものであると知って読めばなんとなく読めるようになるが、同じ音について複数字体があるのはなんともまぎらわしい。18世紀から19世紀へのかわり目といえば、産業革命が進行中の時代である。産業革命の一面がこの字体の統合であると考えればおもしろい。
 日本のひらがなは所詮は音を単漢字の行書体/草書体で表現するものであって、現代のひらがなはそういった行書体/草書体の延長上にあるが、同時に漢字の特徴である同音多字を継承して江戸時代には一つの音に対して何種類もの字が使われていた。明治になって活字が幅をきかせるとその種類を減らしていき、明治33年の小学校令でようやくひらがなが固定されるという歴史がある。イギリスもその100年前までは、日本ほどでないにしても似たような状態があったということだ。たった100年の差と考えると意外におもう人もあるのではなかろうか。
 産業革命については最近いろんな意見があって、進行速度や内容からみて革命というほどのものではなく山をジワジワ登っていくようなものであったという見解もあるが、このイギリス発の「産業革命」は活字の統合にみられるように、いろんな方面を改良していった地道な努力の結果、蒸気機関や鋼鉄をうみだし、その後の革命的な発展に繋がっていった。さらに「イギリスの産業革命」を祖型として各国追随した結果、現代社会がうみだされるのであるが、日本が追随したペースも100年ほどの遅れでしかなく、それからさらに100年たった今ではいろんな国が追随しているとおもえばインドや中国が発展していてもなるほどとおもわなくもない。