メモ@inudaisho

君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

パブリックドメインに関するKDPの穴

 いやなところ2としようかとおもったがどっちかというと「穴」のような気がするのでこうした。
 君見ずや出版は今のところ「国会図書館デジタルコレクションの画像を整形してKDPで売る」のがメインである。雑にいえば横流ししているだけだが、グレーゾーンを突き進んでいるのではなく、許可されていることを確認してからやっている。国会図書館デジタルコレクションについては以下のページに書かれている。
サイトポリシー | 国立国会図書館-National Diet Library
 つまり復刻と称してやっているのは「国立国会図書館ウェブサイトから」の「コンテンツの転載(画像、文書、記事、データ等の復刻、翻刻、掲載、放映又は展示等)」であり、「1 著作権保護期間満了のもの」を選んでいるので連絡が不要だということだ。この転載には条件があり、

1 使用した画面が国立国会図書館ウェブサイトから転載したものであることを明示すること。
2 使用した画面を使用する目的以外の目的に使用しないこと。

 この二つを守らなければならない。正直二つめについてはよくわからないのだが、復刻翻刻以上のことはやっていないのだからいいだろう。一つめについてはさらにQAで補足されている。

Q3. 転載に係る条件として「使用した画面が国立国会図書館ウェブサイトから転載したものであることを明示すること」とありますが、どこに、どのように記載すればよいのでしょうか?
A3. 定型の表現を用意しておりませんので、「国立国会図書館蔵」「国立国会図書館ウェブサイトより」など、当館の画像を使用したことを記載してください。記載場所は、使用する画像の付近が望ましいですが、それが難しい場合は、巻末やエンドロール等での記載でも結構です。

 ということで、君見ずや出版では「国会図書館所蔵」云々を表紙と奥付、および商品説明のところに書いている。Amazonの肝いりでおこなわれたインプレスゴマブックスによる「国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載」であっても、「国会図書館」であることを前面に押し出しているのは、この条件からいえば当然のことだ。

 ところでネット上における日本の古い本の大規模デジタル化成果物公開の一方の雄が早稲田大学古典籍総合データベースである。しかしここの「転載」には申し込みが必要だ。詳細は以下のリンクに書かれている。
古典籍総合データベース | 画像データの利用について
 まぁこれを引用しておけば十分だろう。

もし無断で使用した場合には、大学として法的な手段も含め、断固たる措置を講じることがあります。

 デジタル化された成果物はネット上で公開されているかぎり自由に閲覧できるが、デジタル化もその成果物の公開もタダでできるものではなく金と手間がかかっているので条件をつけるのも道理である。もっとも世の中には条件を守らない人が必ずいる。であるから条件を守らない人に対して警告を付けておくのはよい考えであろう。国会図書館はその種の警告もあいまいである。利用した結果おこったことはあなたの責任です程度のことしか書いてない。

 青空文庫という一種の宗教のような著作権切れ作品テキスト化団体があるがここは著作権という法定の枠だけを基準にその条件をつけている。
青空文庫収録ファイルの取り扱い規準

(節録)
著作権の切れている作品

ファイルは、有償であるか、無償であるかを問わず、複製し、再配布することができます。


著作権の切れていない作品

私的使用の範囲を越える複製、再配布は、著作権者の許しがない限り、できません。

 つまり著作権が切れたものは自由に使ってもよく切れてないものは私的複製の範囲にとどめておいてくださいと杓子定規だ。まぁそのへんはともかく、青空文庫は金にしてもよいと積極的に表明している。目敏い人はとっくに売り捌いているし、電子書籍事業者自体も販促物として大いに活用している。青空文庫には手段を無視する性質があるのでどちらかというと狙い通りなのだろう。

 さてようやく本題のKDPだ。
パブリック ドメイン コンテンツの出版

当プログラムを通じて、パブリック ドメインのコンテンツを販売いただけます。Amazon では、提出されたコンテンツがパブリック ドメインであることの証明をお願いすることがあります。当プログラム、または他のサイト経由で既に入手可能なパブリック ドメインのコンテンツの取り扱いはお断りする場合があります。

Amazon では、お客様に満足度の高いお買い物をしていただくため、パブリック ドメインの本については差異のない複数のアイテムを取り扱わず、無料版が存在している場合はその 1 点のみ提供するものとします。

 この説明が前提としているのはテキストだがそれはともかく、KDPにおいては「パブリックドメイン」という枠があり著作権切れのものはその枠組みで売れということになっている。登録するときもこれを選択させられてかつ一度登録すると変更できない。この枠組みだと利益率は35%しか選べない = Kindleセレクトに入れない。Kindleセレクトに入ると読み放題の対象になり、読まれる度に分配金が入ってくる。パブリックドメインになるような古い本は「買う程ではないがちょっと見てみたい」ようなものが多いだろうから、できればKindleセレクトに入れるようにしてもらいたいものだが、こうしてわざわざ除外しているのは、Amazon本来の趣旨としてはパブリックドメインの販売にはあんまり手を出してほしくないのかもしれない。

 ではここで問題だが。パブリックドメインのものをパブリックドメインでないと申告して売ることはできるのだろうか。

 パブリックドメインかどうかで違いを作るのは Amazon 社内の問題であって、コンテンツそれ自体とは関係ない。物でいえばテキストの塊、画像の束で、パブリックドメインかどうかで違いなんかない。だいたい商品のページをみてもどこにもパブリックドメインであるとか書いてない。しかもどうも Amazon の方でもこの「パブリックドメイン」かどうかの選択欄を全然チェックしていない節がある。つまりこれは Amazon の穴だ。そういうところを攻めれるかどうかで商才があるかないかが分かれるところだろうが自分には商才がないので攻めない。しかし世の中には抜け目のない人がいて、ちゃんと攻めているのである。答は「できる」である。
Amazon.co.jp: LOGDESIGN publishing: Kindleストア
Amazon.co.jp: Argon Works: Kindleストア
 それぞれの商品をみて「プライム会員: ¥ 0 」というのがあればそれが Kindle セレクトに入っている = パブリックドメインでないことにして販売しているということだ。どういうからくりでこんなことができるのかしらないが、Amazon の審査を通ったから OK なんだろう。こっちに対してはいちいち著作権がどうこう没年がどうこうとかいうメールを送ってきて今まで三冊も事実上販売停止にしたくせに、これだから Amazon はけしからん。これからパブリックドメイン売りに参入する人はこの人をお手本にして Amazon の穴を攻略するのもいいのではなかろうか。

(20170913 ブクマされたので追記しておくと、その後編集著作権なるものがあるので、上記の穴は穴というよりは適度に編集して著作者の一人になっておけばパブリックドメインでないことにできるという話で、その後、君見ずや出版でも数冊似たようなことを試したがやっぱり落ちつかない)