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君見ずや出版 / 興味次第の調べ物置き場

ゴマブックスの井上操『崩し文字便覧』があやしい

君見ずや出版

 税金を投入して作られた国会図書館の古い本の画像を金にするという事業の歴史についてちょっと書いてみよう。最初は、インプレスがプリントオンデマンドという形で書籍化するというスタイルで華々しくスタートしたが、おそらく採算とれなかったのか2シリーズ出したところでやめてしまった。自分はそのころ折角画像で提供されてるんだから直接電子書籍にしたらいいだろ、とおもいつき、実際にやってみせた。で、Amazon が特別扱いしてくれるのを期待したのだが、Amazonは個人は鼻にもかけないらしく、最初は順調ではなかった。
 インプレスが放り出した後はゴマブックスが引き継いで安めの値段でオンデマンド及び電子書籍の両刀で試してみたが、これも結局放り出してしまい、今は Amazon 自身が Kindle アーカイブという枠を作って大量に電子書籍化し一部100円でバラまいて販促につかっている。まぁ営利でやるには割にあわないんだろう。 うちでも月5万程度なんだから割に合うところの問題ではなく乞食商売でしかない。所詮はタダでみれるものを整形しているだけなんだから売れると見込む方が間違いなのだ。

 以上がその歴史だが、ゴマブックスが引き継いだときに、一応売れ筋を計算したのか、大学創設者シリーズというのを案出した。その一つが井上操『崩し文字便覧』だ。

 売れ筋を計算して大学創設者というところを攻めるところなんかは自分の発想の及びつかないところで、そんな売り方があるのかと感心したが、それはともかくこの本なかなかおもしろい。実社会に出た生徒が崩し字の書き方がわからず困る事の対策で作られたもので、まとめれば「草書は簡単な部品の組合せからなるのでそれを覚えれば崩し方も自由自在」というもので、実用から出発したものとはいえなかなか斬新な発想だ。これは形から崩し字の元の形を探しだす古文書関係者のバイブル 児玉幸多『くずし字解読字典』の逆バージョンともいえる。ゴマブックスKindleアーカイブは手間をはぶくためか目次をつけてないので、これに目次をつけたらなかなか便利なものになる。うちでもちょっと出してやろう。そう思って国会図書館のページをみてみるとちょっとおかしな事に気付いた。

国立国会図書館デジタルコレクション - 崩し文字便覧 : 草書七則

公開範囲
インターネット公開(裁定)
著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開
裁定年月日: 2012/03/01

 あれ? 裁定公開?むーん?
 国会図書館デジタルコレクションのものの再利用は著作権期間満了の画像にかぎって、無届けで利用できることになっている。裁定公開のものは著作権不明なので国会図書館にお伺いを立てないと使えるかどうかわからない。裁定公開の状態のものを電子書籍化したことはないので実際どうなのかわからない。

 2sc1815jの日記
 国会図書館デジタルコレクションの公開範囲の変化を追っている2sc1815jさんの日記をみれば、著作権期間満了していたものが裁定公開になることはよくあることらしい。ではこれはどういう理由なのだろうか。

 まぁしかしこれは、ちゃんとこの本を読み、著者がどういう人なのか知ろうとすればすぐわかることだ。まずこの本は大正11年3月(1922)にでている。著者井上操は姫路高等女子学校に勤務している。はて? 「大学創設者」にしては妙な履歴ではなかろうか。さてここで関西大学(の前身の関西法律学校の)創立者のひとり井上操の履歴をみてみよう。
井上操|関西大学 年史編纂室

弘化4年(1847)9月20日、長野県に生れる。
明治38年(1905)2月23日没した。57歳

井上操 - Wikipedia (参考)
 簡単に言うと、関西大学関係者にして法律家の井上操の生没年は1847-1905であって、1922年に姫路高等女子学校の先生をしているわけがない。裁定公開になったのは、つまり姫路の井上操が生没年不詳だからだろう。姫路の井上操は女の先生かもしれない。どうしてゴマブックスはよりによってこんな本を選んでしまったのか。
 まぁしかし「無料の国会図書館の画像を右から左へ流すだけの仕事」に飛び付くような安直な連中のことだから、「井上操」で検索したリストの上の方にあって薄い本、というだけのところではなかろうか。これを形容する言葉はいくつか思いつくがこれ以上は控えておこう。自分も同じミスをいつするかわからない。まぁでもどうせ恥*1とか知らなさそうだからこのまま売りつづけるんじゃなかろうか(オイ

 それからこの本が国会図書館でいつから「裁定公開」になっていたのか自分には確認することができない。そもそも最初っから裁定公開だった可能性もなくはない

*1:大学創設者と銘うちつつ違う人間のものを売りつけることについて。まぁ君見ずや出版も応挙画譜とかいうあやしいものを売っているが...