「KDP 収入」「KDP 売れない」
Google で KDP のサジェスチョンをみるとこんなのが出てくる。実際 KDP だと売れるんだろうか。しかしその問い自体そんなに意味がない。世間一般の商売を考えてみればわかるが、普通商売を始めるには元手が必要になる。飲食だと設備投資もバカにならないし営業許可など手続も煩雑だ。毎月の売上と出費を睨んで計画的に運営しないといけない。モノを売るにしてもなにかしらの対人サービスを売るにしても、どこかになにかしらの固定費が発生するので売上を常に気にしないと、生活がなりたたなくなる恐れがある。そして売上が立たないと商売が詰む。飲食店が出ては消え出ては消えしているのは、目標額稼げたからやめる場合もあるがだいたいなりたたないから撤退するのだ。
KDP には失敗がない
KDP はそういったものをほぼ考えなくてよい。パソコンや固定回線のネットの契約などあればいいものはあるが、その過程・品質にこだわる必要はなく、最終成果物さえあればいいのだから、最悪スマホだけでもなりたつ。だからまず言えるのは
- KDP には失敗がない
ということだ。ここで書いている失敗とは KDP で売れなくてもそれが原因で破産しないということだ。まぁ、Amazon の方の判断で却下されて売り出せない場合や、後からなにか機嫌を損ねて追放される可能性もあるが、それ以外の失敗はないだろう。もっとも書いたものが原因で社会的に抹殺されるとか刺し殺されるような事があるかもしれないが、それは口は災いの元というだけの話だ。
KDP には失敗がないので、実際に売上がのびない人がいつまでも「売れない」「売れない」と文句を言える状況にある。だからそういう人がいつまでたっても淘汰されないのだが、それが逆に KDP のリスクの低さを証明している。飲食で「売れない」と言ってるだけだと借金せおって夜逃げするハメになるだろう。
つまり簡単にはじめれるし売れなくても金銭的なリスクを負わないので「売れる」「売れない」が死活問題にはならない。売れるか売れないか、そんなことを気にするよりも出してから様子を見ればよい。何が売れるのか、売ってる方もわからないのだから。たとえばプロの作家が売っても意外と売れないということはあるようだ。出版社の営業力は侮れない。
商売敵は多い
ただしリスクが低いということは、パクリも多いということだ。実際に商業出版の世界でもどこかの出版社がヒットを飛ばすと、それにつづけとばかりに似たような企画が出て似たような著者の本が出てくる。マンガの世界ならもっとエグいパクリがでてくるが、これがKDPのような無法地帯だともっとひどい。漫画村の画像をまとめて KDP で売った人がいるのはもう犯罪の域だが、そんなことも可能なわけだから、ただ漫然と出していればいいというものでもない。しかし大多数の人が心配することはない。これは「売れた」場合のリスクだ。「売れない」ときはマネされるリスクも少ないのだ。
ちなみに我が君見ずや出版は国会図書館デジタルコレクションの著作権切れの画像をちょっと加工して売ってるだけなので、マネするのもリスクがない。だからその方式で売れると悲惨なことになる。たとえばこれ。
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川瀬巴水などの大正~昭和戦前期の「新版画」は2010年代初頭には一部で注目されていたが、まだ一般に知られている状態ではなかった。もともと浮世絵や挿画が好きですこしは知識があったのでとりあえず出してみたところ、最初はあんまり売れなかったのだが、その年 NHK 教育の日曜美術館で特集されてから無茶苦茶売れるようになった。これはこのまま飯食えるようになるかなと思っていたところ、当然ながら同じ手法を取ってくる相手があらわれ、値下げ競争となって潰し合いが発生した。その後、売上としては大した数にならないが、入口としてはよい働きをしているようである。
売れないとマネされない
ただしそのようにモロにパクりに来る人達は欲目で来ているから、売れないものはそんなにコピーされない。だから無茶苦茶売れるよりは細く長く売れる方がよい。これは Amazon が狙っているロングテールのテールの一部になるので、その企業戦略にも合致している。
君見ずや出版のやったことは、歴史・文学など学術系の人にはおなじみの古籍の覆刻出版なので、自分も違和感なくはじめたのだが、それまで 電子書籍 = テキスト が正しい道で、画像で出す固定レイアウトは邪道と考えるような人が多いところへこういうのを出すのは冷たい目を感じた。が、気にせずボンボン出してたらそのうち Amazon 自体が一冊100円で同じことを大々的にやりだした。これ、最初は Amazon に潰されると思ったのだが、なかなか被せてこないのでそうでもないなと気付いた。要はロングテールを伸ばすための作戦だから、共同作戦の形になれば積極的には潰されないということなんだろう。今では同じようなことをしてるところがいくつもあるが、安藤百福が台湾の鶏絲麺をマネしてチキンラーメンをつくったのと同じくらいの値打ちのことはしたとおもっている。
つまり売れないと平和。売れないところでは潰しあいが発生しない。無茶苦茶売れるものを必死になって売るよりも物好き相手のあんまり売れないものを売るのが一番いい。
どうしても売れるか売れないか気になる人は
どうしても売れるか売れないかが気になるときは、どうして自分がそんなことを気にしているのかを気にしたほうがいい。今の仕事がつらいから、そこから脱却したいからKDPに期待をかける、またカネにこまったから一発逆転をかける、また昔から作家になりたかった、など、どこかに現実離れしたところがあるはずだ。なんでもそうだが生活にある程度余裕がないとモノは作れないので仕事がキツキツなら仕事、生活がキツキツなら生活を先に見直した方がいい。作家になりたいならまず作品をしあげてからだ。同人誌を出したことがある人なら同人誌がどれだけ売れるものかわかるだろう。万人に対して同人誌は売れるとは言えない。それとおなじなので、同人誌を出すつもりでとりあえず出せばよい。
価値を考えよう
売れる売れないを気にして KDP やると早晩パクりに堕ちてしまうだろう。隣の芝生が青く見えて、刈りに行ったりしてしまうかもない。そうなると潰し合いの無間地獄にハマって抜け出せなくなる。まぁ完全に潰されないだけのたくましさを持つことは大事だが、そもそも KDP は誰かに読んでもらうことで成立するものだから、右や左の同業者ばかり見てもしかたない。KDP の売上の数字の向こうには確実にそれを読んでくれた読者がいる。読者その人を満足させる価値を提供することを考えた方がいい。
価値とはたとえば、読者にとっての未知、もしくは慰安、興奮、陶酔などなど。商業的に成功しているということはその価値の提供に成功しているということだ。しかし、人の考えというのはなかなかわからないものだから、自分が値打ちがないとおもっていたものに値打ちを見いだされることはあるし、自分が当然と思っていることでも人には当然ではなくてそこが値打ちになることがある。本当にわからない。
確実にこれが売れるなんてものはみんなわからないし、売れてる人なら一種の企業秘密だからそうそう簡単には教えてくれない。とりあえず出すしかない。話はそれからだ。
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